研究プロジェクト

RESEARCH PROJECT

研究部

第二研究グループ

日本とアジア諸国が政策立案のために相互から学べる経験

日本はアジアで最初に現代の先進国になった国で、様々な成功と失敗を経験してきたが、成長しつつあるアジア諸国にとって、いずれも貴重な参考になる。この領域では、日本の重要な経済協力パートナーとしてのアジア新興国が日本の経済発展過程・関連政策から何を学べるかについて調査研究を行い、研究成果に基づいて政策提言を行う。

また、現代はもはや欧米のみから制度改革の洗礼を学ぶ時代ではなくなっている。この領域では、日本が近年成長著しいアジア諸国のダイナミックな経済成長と関連政策から何を学べるかについて調査研究を行い、研究成果に基づいて政策提言を行う。

グループ長 岸本 千佳司
メンバー 姚 瑩
彭 雪
髙木 信二

基本プロジェクト2024

台湾におけるスタートアップ支援体制の研究

担当:岸本 千佳司

准教授

このプロジェクトでは、主に台湾を事例とし、スタートアップ・エコシステムの中の支援アクターの取り組みと戦略に注目し、事例研究を積み重ねていく。具体的には、大学・研究機関、成熟企業(特に大企業)、資金提供者(ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家等)、その他支援アクター(アクセラレータ等)が、各々の立場から起業家・スタートアップを支援し各種リソースの提供を行い、同時にそこからなんらかの見返りを受け(例えば、投資収益、事業・技術の補完、人材等)、この循環が回り続けることでエコシステム全体が存続・成長していくのである。

これまでは、過去数年間に一連の台湾のエコシステムに関する研究プロジェクトを実施してきており、なかでもアクセラレータやインキュベータの取り組み・戦略に注目してきた。今年度は、こうした蓄積を踏まえ、さらに不足している部分の取材・事例分析を積み重ね、台湾のスタートアップ支援アクターの個々のカテゴリーを詳細に理解するとともに、全体像を俯瞰できるように努める。

医薬品開発におけるバイアスが健康アウトカムに及ぼす経済的評価

担当:姚 瑩

上級研究員

研究開発は、医薬品アクセス向上と公衆衛生改善に非常に重要である。しかし、新薬開発に対する投資は市場性の高い治療分野に偏りがちで、希少疾患などは相対的に軽視される傾向にある。この格差は、希少疾患用医薬品へのアクセスを制限し、医薬品イノベーションの公平性に問題を投げかけている。

その結果、人々の健康アウトカムに大きな影響を与える可能性がある。先行研究が限られているため、本研究ではこれらの問題に対する探索的な検証を進め、新たな知見を蓄積することを目指す。具体的に、日中における製薬企業の財務データを分析し、企業の研究開発戦略と、疾病カテゴリー別のDALY数(障害調整生命年)との関連性を調査する。

これらの分析により、医薬品開発のトレンドが集団レベルでの健康アウトカムにどのような影響を与えるか、そして技術革新が実際の医療ニーズとどの程度整合しているかを評価する。

TikTokブィロガーの空間分布特徴とその影響要因:中国の都市レベルの分析

担当:彭 雪

上級研究員

オンラインショートビデオは、新しいソーシャルメディアとして、旅行・ライフスタイル・教育・レビューなど幅広いトピックを含んでおり、現代の社会経済活動に多様な影響を与えている。TikTokやYouTubeなどのオンラインプラットフォームでビデオコンテンツを作成・共有する人達はビデオブロガー(vlogger/ブィロガー)と呼ばれる。ブィロガー達(特にその中の影響力のある者)は、創造性と起業家精神に富んでおり、創造人材(creative class)の重要な構成員として、住む都市における人的資本の蓄積や、競争力の向上に繋がっている。

従来の創造人材に関する研究は、企業家や高技術者などを対象とするものが多い。最近の研究では、オンラインで活躍している人材(例えば、TikTokライブストリームコマースホスト(livestream commerce host))にも注目が集まりつつあるものの、都市の文化・経済などより広範な側面に影響を与えているブィロガーを対象とする研究はまだ限られている。

本研究プロジェクトは、中国の地級市レベルの都市におけるTikTokブィロガーのデータを利用し、空間分析モデルで彼らの分布特徴とその影響要因を分析したい。分析結果を踏まえて、都市のブィロガーをはじめとする創造人材の育成施策について提言を行う。

明治・昭和前期為替制度の計量分析

担当:髙木 信二

特別教授

今までは、幕末期から太平洋戦争終結に至るほぼ一世紀間における日本の為替制度に関する研究を行ってきた。この研究は、為替制度の制度的、政治的側面の詳細に関しては経済史の文献を参考にしつつも、あくまでもマクロ経済学の視点から接近するもので、包括的な研究書の執筆を念頭において進められている。この研究の過程で、国際マクロ経済学の文献に貢献するであろうと思われるテーマが浮かび上がってきた。

すなわち、(1)明治後期の古典的金本位制下において、日本がいわゆる「ゲームのルール」を遵守したのか否か、(2)日中戦争期中国の「円圏」において北支と中支間の為替レート(「リンクレート」と呼ばれた)がいかなる要因で決定されたのか、の2テーマである。これは知る限り、国際マクロ経済学の文献において、未知のテーマだと思われる。

本研究では、これらテーマに関して、可能な限り詳細な統計データを発掘し、国際学術誌に投稿、掲載する目的で2本の実証論文を完成させる。