刊行物
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執筆者 | 周 燕飛 |
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発行年月 | 2017年 8月 |
No. | 2017-15 |
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最低賃金が長期にわたって相対的に低い水準に抑えられ、働く貧困層(ワーキングプア)が増加している中、基本生計費に相当する賃金額の支払を企業に促す、いわゆる「生活賃金」運動は、米英をはじめ一部の国や地域において1990年代以降に盛んに行われている。日本でも、労働組合や一部の研究者による生活賃金の試算が2000年代以降に行われている。しかし、日本では生活賃金運動は米英のように盛んではなく、生活賃金はまだ馴染みの薄い概念である。そこで、本稿は、日本の「ワーキングプア」の賃金水準の現状を紹介しつつ、米英の文献を中心に、生活賃金運動の背景、生活賃金の理論体系、生活賃金条例に対する企業の反応、生活賃金の推計方法について整理した。さらに、日本人における生活賃金のあるべき水準について、既存の推計値と比較しながら、独自の試算も行った。試算の結果、日本の標準世帯(夫・と子ども2人の4人世帯)における生活賃金は、片働きの場合が2,380円(2015法定最低賃金の298%相当)であり、共働きの場合が1,360円(2015法定最低賃金の170%相当)となっている。男性、40代以上、大学・大学院卒の高学歴者、勤続年数20年以上の者、正社員、大企業の従業員、専門・技術的職業や管理的な仕事に従事している世帯主は、平均賃金が高く、生活賃金を得ている確率も高くなっている。