刊行物
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執筆者 | 岸本 千佳司 |
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発行年月 | 2014年 2月 |
No. | 2014-01 |
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本研究の目的は,台湾におけるベンチャー支援制度の現状を分析し,その特色と課題を明らかにすることである。台湾は,歴史的・文化的に日本と関係が深く,政治・社会経済制度において日本と類似性が高いにもかかわらず,起業活動の活発さにおいて日本とは判然とした違いがある。例えば,ベンチャーキャピタル投資額のGDP比率やGlobal Entrepreneurship Monitor(GEM)の「総合起業活動指数」(TEA)のような指標で見る限り,台湾は先進国型経済の中で上位に位置するのに対して,日本は最も保守的なクラスに属している。本研究では,起業活動の活発さを左右する制度的要因として,ベンチャー企業の育成・支援に関わる政策や関連アクターの活動,即ち起業支援の「エコシステム」に注目する。具体的には,行政院経済部中小企業處による起業家支援の諸施策,その舞台として重要な役割を果たしている台湾全土に100ヵ所以上あるインキュベータ,加えて高度に発展したベンチャーキャピタルの活動を検討していく。分析の結果,台湾の旺盛な起業を支える制度・取り組みの重要な特徴として,①政府による継続的コミットメントと関連アクターの連携促進,②「育む構造」の形成,③国際性の高さ,の3点が挙げられる。こうした支援制度の発展にもかかわらず,幾つかの課題も指摘される。即ち,多くのインキュベータで政府補助への依存が依然高く今後の自立化・特色化推進が課題となっていること,ベンチャーキャピタルに関しては,成長初期ステージ企業への投資の手薄さと本格的な国際展開へのハードルの高さといった問題があり,今後,民間ベンチャーキャピタルの大型化と専門化による資金力およびハンズオン支援機能の強化が課題として言及されている。