刊行物
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執筆者 | 岸本 千佳司 |
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発行年月 | 2009年 8月 |
No. | 2009-20 |
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本稿では,長江デルタ地域,とりわけ上海・蘇州に焦点を当て,その産業集積としての発展状況を分析する。急速に発展する中国の半導体産業において,長江デルタ地域はその中心地の1つとみなせ,相当規模の企業集積が形成されている。一方で,その中核である上海・蘇州地域をみると,半導体産業の各部門構成比で,設計業が小さく,デバイス製造業とパッケージ/テスト業が大きい(特に後者が売上高の半ば以上を占める)という,中国半導体産業全体の特徴でもあるアンバランスな発展を一層増幅した構造も観察される。また外資系企業への依存度も高く,それらの少なからぬ部分は,国内や地域の産業連関と相対的に弱い繋がりしか持っておらず,アンバランスな産業構造の一因ともなっている。
このように産業集積としての未成熟さが観察されるものの,地場企業も徐々に成長してきている。相対的に比重の小さかった設計業でも,近年,留学帰国者によるベンチャー企業設立を含め企業数が急増している。これら新設企業にとって,ベンチャーキャピタルを含む資金獲得,販路開拓,製造委託,人材獲得・訓練等において同地域への立地は相当の利点があると考えられる。この背景の1つとして,半導体産業育成に重点を置く地域の開発区や支援機関の働きが重要である。外国企業の誘致に加え,半導体ベンチャー企業に対して広範囲にわたる支援メニューを提供し,いわば地域全体をインキュベータ化しているとも言える。