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グローバル経済時代における九州半導体装置・部材産業の発展

執筆者 岸本 千佳司
発行年月 2008年 9月
No. 2008-23
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内容紹介

本稿は,国内有数の半導体産業集積地でありながら,地方としての制約も有する九州エリアに注目し,九州における関連装置・部材産業の現状と発展の展望を,グローバル経済時代における地域・地方の産業振興戦略の観点から分析・検討することを課題とする。分析の結果,九州半導体装置・部材産業の大きな問題点として,戦略的機能(設計・開発,マーケティング等)の不足と国際リンケージの未発達が挙げられる。この内,戦略的機能の不足は,九州内の企業・拠点間での踏み込んだ提携・協力関係が生じ難く,有機的なネットワークを持つ産業クラスターとしての発展への制約に繋がっている。また,国際リンケージの未発達は,国内志向,それも関東等の国内先進地域志向の裏返しであり,戦略的機能(国際事業運営)の不足とも関連している。

九州はしばしば,「東アジアへのゲートウェイ」という立地上の優位性を主張するが,単に地理的に近いのみで取引および知識・技術面でのリンケージはさほど展開していないとみられる。東アジアとのリンケージによる発展を目指すに当たって,以下の点を考慮すべきである。第1に,顧客として見る場合,日本と東アジア企業の志向の違い(関係構築の容易さ,取引の長期継続性,カスタマイズへの要求度,技術文化など)を考慮して取引のバランスを考える必要がある。第2に,サプライヤーや下請け・製造委託先として見る場合は,国内外のライバル企業が東アジアの地場サプライヤー等をうまく使いこなしコスト競争力をつけるような事態になる前に,それを積極的に開拓しレベルアップに協力するという戦略的動きも要求されよう。最後に,日本メーカーの競争優位を如何に保持していくかである。半導体装置・部材分野は,顧客との密接な交流を通じて「匠の技」を根気よく磨き上げ品質で勝負するという日本企業の得意な経営手法が通用し易い分野であるが,「匠の技」を支える団塊の世代が引退する時期に優位性が崩れる恐れもある。基盤技術・技能の訓練・継承を促進する制度の構築と人材面でのアジアとの協力も視野に入れる必要がある。