執筆者 | 本間 正義 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2024年3月 |
No. | 2023-04 |
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本研究は、食料安全保障について、その概念規定や議論の経緯をふまえ、どのような要因が食料安全保障にかかわり、時代とともにどう変遷してきたのか、国際的に議論されている食料安全保障の概念に照らし、食料安全保障の本質とは何かを探った。その上で、日本の食料暗安全保障政策のあり方を、世界各国の政策と比較しながら検討した。
国際的には、食料安全保障は FAO(国連食糧農業機関)による定義で一般的に認識されているが、日本では必ずしも浸透していない。FAO の定義は、食料の存在からその安定供給、食料への物理的社会的経済的アクセス、そして食料の利用・摂取にいたるまで、フードチェーンのすべてをカバーしている。各国の食料安全保障対策は、そのフードチェーンの何処にボトルネックがあり、食糧難に陥っているのかを分析する必要がある。
食料安全保障が確保されているか否かを判断する指標のひとつが栄養不足人口であり、その推移が国際的に注目される。一定水準以下の食事エネルギーを摂取していない人口とその全人口に対する割合は、低下傾向にあったが、近年上昇に転じ、2022 年で8億人近く、全人口の9%を超える人々が栄養不足に陥っている。特にサブサハラ地域の栄養不足人口は地域の総人口の 22.5%に及ぶ。
一方、日本での食料安全保障の議論は食料自給率の低さに集約される。現在熱量ベースの日本の食料自給率は 38%であり、国民の食料の6割以上を輸入に頼っている。食料・農業・農村基本法では、食料の安全保障を確保するために、「国内 の農業生産の増大を基本に、輸入や備蓄を適切に組み合わせること」としているが、改正基本法では、食料安全保障のために項目を増やし、新たな政策を導入することが議論されている。
一方で、不測時の食料安全保障に対しては、食料供給が滞るおそれのある事態に対処するため、政府として講ずべき対策を「緊急事態食料安全保障指針」で示している。改正基本法では、 「不測時における措置」を新たに設け、この指針を織り込んでいる。具体的政策は、改正基本法の下で策定される食料・農業・農村基本計画に盛り込まれることになる。
食料安全保障の達成度を示すものとして、世界食料安全保障指数(GFSI)があるが、そこでは日本は世界第6位に位置する。GFSI は 68 項目からなる総合指数であるが、日本の各項目の評価を他国との比較で分析した。また、英国、ドイツ、オランダ、スイスを採り上げ、各国の食料安全保障政策を検討し、日本の政策との違いを明らかにした。その上で、これからの日本の食料安全保障政策の在り方を探った。