執筆者 | 八田 達夫, 田村 一軌 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2021年3月 |
No. | 2020-06 |
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本研究の目的は,福岡県と他地域間の人口移動が,高度成長期から現在まで,どのような要因で変化してきたかを分析することである。特に,社会資本ストックや公共投資などの政策変数が,福岡県と他地域の人口移動に生活環境や賃銀に及ぼす影響を通じてどの様に人口移動に影響を与えたかを分析した。
2019年度の研究プロジェクトでは,1974年以降の地方圏から都市圏への人口移動の激減の要因は移動元の人口減ではなく,「国土の均衡ある発展」政策などによる地方への再分配が大きな原因であることを計量分析によって示した。
本年はこの分析のフレームワークを,福岡県と他地域間の人口移動の分析に適用した。すなわち,日本を都市圏・地方圏・福岡県の3地域に分割し,福岡県と他地域との間の人口移動の要因を計量分析によって検討した。用いた指標は一人当たり県民所得と一人当たり社会資本ストックおよび失業率である。
まず,福岡県から都市圏への人口流出については,2019年度作成した地方圏から都市圏への人口移動の分析モデルをそのまま適用することで,その変化の要因を説明できることがわかった。つまり,県民所得比率社会資本ストック比率,失業率のいずれもが,福岡県から都市圏への人口流出における重要な要素である。
しかし福岡県の場合には石炭産業の衰退も人口流出に影響を与えている。したがってこれらの変数の影響をコントロールしたうえでの政策変数の人口移動への効果を分析した。なお鉄鋼の生産量の減少は人口流出に有意な影響を与えていないことが明らかになった。
一方,福岡県から地方圏への人口流出については,県民所得比率が1に近い値で推移していることもあり有意な指標とはならず,社会資本ストック比率と失業率でその変動の大部分を説明できることがわかった。
これらの結果から,福岡県の人口移動についても,国による福岡県へのフローストック両面での再分配政策などによる地方における社会資本ストックの増加が,その大きな要因となってきたとみなすことができる。