執筆者 | 田村 一軌 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2020年3月 |
No. | 2019-08 |
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筆者らは,これまでも,港湾を中心とした国際海上物流の研究を行ってきた。そのような一連の研究を行ってきた動機の第一は,激しい都市間競争にさらされている北九州市を念頭に,製造業を中心とする地域産業を下支えする物流拠点としての港湾の競争力を高めるための政策提言を行うことであった。
北九州港は,日本国内で見れば九州の玄関口であり,また東アジアに目を向ければ,中国・韓国から日本への玄関口に位置している。地理的には好条件に恵まれており,さらに,製造業を中心とした後背地の産業集積,高速道路や内航海運網などを含めた物流ネットワークにおける拠点性など,数多くの長所を備えている。その一方で,博多港など近隣の港湾との競争環境下にあること,手狭な用地や施設の老朽化,6大港のひとつであることによる規制など,様々な障壁を抱えている。
そのような状況を打開する施策として,①Ro-Ro船の活用,②近隣港との協調と競争,③東アジアとの接続強化を軸とした施策提案を行なってきた。ただし,これまでの研究においては,港湾の競争力については定性的な分析にとどまっており,施策の優先順位の決定や施策効果の定量評価などの分析・議論ができていなかった。
そこで本研究では,港湾の競争力が港湾の取扱貨物量に集約されているとの考えに基づき,港湾統計の月次時系列データを用いて,北九州港の国際コンテナ貨物取扱量を多角的に分析することを試みる。第2章では,本研究で用いるデータについて,その入手方法および入手データの概要について解説している。第3章では,時系列データの季節変動を処理する方法について解説し,それをコンテナ取扱貨物量に適応した結果を示している。また,北九州港のコンテナ貨物量の変動要因について考察した。第4章では,コンテナ貨物取扱量の推移データを時系列データとみなし,VAR(ベクトル自己回帰)モデルやICA(独立成分分析)などの分析手法を適用する試みについて述べている。
これらの分析の結果,時系列データをトレンド成分と周期成分および誤差に分解することで,2005年以降の日本および北九州港・博多港のコンテナ貨物取扱量の変動を把握することができた。また,時系列分析を通して,北九州港と博多港のコンテナ取扱貨物量に競合的な関係があることを示唆する結果が得られた。さらに,独立成分分析など,これまで港湾の分析にはあまり用いられていない手法の可能性を示した。
以上から,コンテナ取扱貨物量を時系列データとみなして分析する手法に一定の目処がついたものの,当初の目的であった,施策の優先順位付けや効果の定量評価にまでは至らなかった。したがって,今後の課題としては,品目別あるいは貿易相手国別のデータの整備とその利用,港湾の後背圏における生産活動や消費活動に関係する社会経済データの利用によって,分析モデルの精度と解釈可能性を高めることが挙げられる。さらには,貨物量の将来推計についても,今後の課題として検討する必要がある。