執筆者 | 田村 一軌 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2019年3月 |
No. | 2018-08 |
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電子計算機の能力向上や計算理論の進化によって,人工知能(AI:Artificial Intelligence)の性能が劇的に向上し,実社会での普及も進んでいる。また,各種通信技術の進展は「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)の可能性を大きく広げた。物流・ロジスティクスの世界も,これらの技術進歩にともなって,単に必要なモノを必要なタイミングで運ぶだけでなく,情報の流通・フィードバックなどを一体化することによって,企業活動を時間的および空間的に統合し,その自動化・シームレス化を通じて最大・最速の経済付加価値を創り上げる時代となった。
オランダのロッテルダム港やドイツのハンブルグ港など世界をリードする港湾では,港湾機能をこのような物流・情報流システムの中に位置付け,顧客サービスを向上させることで近隣港との競争に打ち勝とうとしている。わが国でも,ようやく近年になって物流KPI(Key Performance Indicator)などを活用した顧客重視の港湾競争力強化が重要視されつつあり,国土交通省による港湾の中長期政策『PORT 2030』では,顧客を重視した港湾競争力の強化や情報システムの拡充が謳われている。
筆者らは,これまでにも主に北部九州の港湾を対象として,顧客視点に立った港湾の競争力指標に関する研究を行ってきたが,定性的な評価指標の定量化,および定量的指標と定性的指標とからなる総合指標の構築に課題を残していた。そこで本研究では,門司港と博多港のコンテナターミナルを対象として,船社・フォワーダ・荷主といった港湾の“顧客”の立場から,港湾の評価を定量的に行う方法について調査を行なった。
第2 章では,港湾の競争力あるいは港湾選択行動分析に関わる既存研究を整理し,本研究における港湾評価指標を定義した。
第3 章では,公的統計を用いて北九州港と博多港を比較した。すなわち,一般に公表され入手可能なデータを用いて,定量的に港湾を評価する指標について,北九州港と博多港を事例として整理した。
第4 章では,物流や港湾の実務担当者など港湾の知識をもつ専門家へのアンケート調査を実施し,AHP(Analytic Hierarchy Process:階層分析法)を用いることで,定性的な評価指標についてもて定量的に評価すること,定量的および定性的なものを両方含む複数の指標からなる総合指標の構築とそれによる港湾評価を試みた。その結果,コンテナターミナルの評価ウェイトは個人によってばらつくものの,いくつかのグループに分類できる可能性があることが明らかとなった。また,回答者の評価ウェイトを平均した結果から港湾評価項目ごとの評価ウェイトを比較すると,「アクセス距離・接続性」「港湾での所要時間」が相対的に重要視されていることがわかった。