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中国における不動産税の設計に役立つ日本の経験

執筆者 八田 達夫
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2018年3月
No. 2017-08
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内容紹介

当研究の目的は、現在中国で討議されている不動産税の在り方に関する検討内容を調査し、今後その改革がいかにあるべきかを日本の経験に照らして分析提案することにある。高度成長の過程では経済資源の都市への集中が起きる。そしてこれは、集積の利益のためである。その結果地価が高騰する。都市の土地を持っていた地主は高騰した地代収入を年々の得ることができるだけでなく、地代の上昇に伴って、土地からのキャピタルゲイン(中国の場合土地使用権の権利金の値上がり)を享受することができる。経済成長の成果のかなりの部分は、都市の地価の上昇に帰結する。

したがって、経済成長の成果を社会全体の成果にするためには、土地からの地代やキャピタルゲインを国が税を通じて回収しなければならない。ところが中国には現在、固定資産税もキャピタルゲイン課税もまた相続税もない。不動産税の改革は、検討されている。当研究では、現在中国で討議されている不動産税の在り方に関する検討内容に照らして、今後その改革がいかにあるべきかを日本の経験に照らして分析することにある。

高度成長期の日本では不動産税を整備するにあたっては様々な問題に直面し、一部は解決し一部は今も抱えたままになっている。

まず、譲渡益税は、単純な掛け方をすると、所有者がこの税を支払うのを嫌がって保有し続けるいわゆる凍結効果をもたらした。これに対していくつかの提案が日本ではされている。特に譲渡益税における死亡時課税と含み益利子課税方式が、日本で実現していないが中国では譲渡益税を新設する場合は最初からこれを目指すことが有効であると考えられる。

固定資産税は、これを引き上げることによって地価の急激な低下を招き、たまたまその時点での土地所有者に大きな損害を与えた。これは地価税の時に経験したことである。このため土地増収を図る際に、譲渡益税と固定資産税の値上げのどちらを取るべきかについては日本の経験が役立つ。さらに、土地への課税税率と上物への税率の整合性も問題を起こしてきた。さらに相続税は所得税や消費税との整合性が問題にされてきた。

本研究では中国の不動産税の在り方に関する論点を明らかにするともに、日本の高度成長期における土地税に関する改革提案を中国の改革に役立つ形で整理した。