刊行物

PUBLICATIONS

アジアと日本における半導体・次世代産業の新展開

執筆者 岸本 千佳司
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2018年3月
No. 2017-06
ダウンロード 8760KB

内容紹介

本報告書は、公益財団法人アジア成長研究所(AGI)の研究プロジェクト「アジアと日本における半導体・次世代産業の新展開」(2017年度実施)の成果である。近年、経済のグローバル化・デジタル化に伴い、ビジネスのあり方が根本的に変容し、(特にアジアの)新興国の台頭と日本の地位の相対的低下が顕著となっている。過去数年間、AGIの研究プロジェクトあるいは科研費等のプロジェクトを通じ、主に台湾の半導体・電子産業に焦点を絞り分析してきた(その成果として、昨年、拙著『台湾半導体企業の競争戦略−戦略の進化と能力構築−』日本評論社が刊行された)。本プロジェクトでは、これを踏まえ、台湾を含むアジア(主に中国)と日本の半導体・次世代産業の新たな動向について研究することを課題とする。ただし、こうした広範囲にわたるテーマは、単年のプロジェクトでは到底し終えることは出来ず、今後数年間をかけて、若干フォーカスをシフトさせつつ探究する必要がある。そこで2017年度は、台湾における次世代産業推進の取組を中心に研究した。

台湾は、過去30年ほど半導体産業を含むエレクトロニクス産業(ハードウェアの製造業中心)を主な原動力として成長してきた。近年、こうした成長モデルにやや陰りがみえ、次世代産業育成の必要性が叫ばれている。なかでも、IoTやインターネット・ビジネスは、台湾にとっても今後大きなビジネスチャンスをもたらすものとして重視される。加えて、新産業の担い手としてベンチャー企業の育成が強調されている。その際、その国・地域特有の「ベンチャーエコシステム」に注目すべきことが、近年の関連分野の研究で指摘される。ベンチャーエコシステムとは、様々な関連支援アクター(大学/研究機関、経営支援専門家、ベンチャーキャピタル、既存大手企業、政府の支援策等)によって構成される起業家・ベンチャー企業の立ち上げと順調な成長をサポートする仕組みである。これを踏まえ、本報告書では、台湾におけるベンチャーエコシステムの発展を次世代産業推進の取組と関連させて詳細に分析する(第2章)。

ところで、こうした研究をするにあたって、ベンチャービジネスの聖地ともいうべき米国シリコンバレーの状況に関心を持つに至った。当地のベンチャーエコシステムは既に戦前から発展が始まっており、以来数十年の間に幾度かの転機を経て、新たな手法を生み出し世界に広めつつ発展してきている。台湾のハイテク産業の成長も実はシリコンバレーとの国際的リンケージを梃子に実現された部分が多くある。そこで(本プロジェクトは主にアジア・日本の研究が課題ではあるが)、先ず、シリコンバレーの状況を体系的に理解することが望ましいと判断し、別に1章を設けることとした(第1章)。

本プロジェクトの実施にあたって、各章で言及した企業や専門家、団体関係者の方々に多大なご協力をいただいた。また、当研究所事務局職員からもプロジェクトの運営に関して継続的な協力を得た。ここに記して、深甚なる感謝の意を表したい。