執筆者 | 戴 二彪 |
---|---|
所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2017年3月 |
No. | 2016-02 |
ダウンロード | 1193KB |
本研究の課題は,政府統計データとAGIアンケート調査データに基づいて,中国(本土)・台湾・香港からの中国系観光客を主な対象とし,訪日アジア観光客の旅行先選択行動の特徴,異同と影響要因を解明することである。主な分析結果は次のようになる。
(1)日本政府の「観光立国」戦略の実施によって,訪日外国人観光客が増加しつつある。外国人客の国・地域別構成では,アジア客の割合は1990年代の6割台から近年の8割台に上昇している。そのうち,中国,韓国,台湾,香港が上位4国・地域となっている。
(2)三大都市圏や北海道など一部地域のインバウンド観光産業が好調を続けている。他方,九州地域は,最大の観光市場となっている東アジアに近いものの,宿泊ベースの統計では,2015年の訪日外国人客全体に占める九州訪問客の割合は1割未満にとどまっている。
(3)観光庁の宿泊統計データと修正重力モデルに基づく分析によると,中国・台湾・香港からの観光客の旅行先分布は,①旅行先(都道府県)の魅力的な地域特性(経済発展水準・商業繁華度,魅力のある自然景観),②観光客出発地と旅行先の間の連結要因(国際交通の利便性,時間距離),などの要因に強く影響されている。
(4)中国・台湾・香港からの訪日客を対象とするアンケート調査の個票データに基づく分析によると,中国系旅行者の九州訪問の回数において,訪日回数が多いほど,九州訪問の確率と回数も増える。ただし,個人の所得水準は九州訪問の回数にマイナスの影響を与えている。また,九州を初の訪日旅行地とした選択行動においても,所得水準の低い旅行者がより九州を選好している。なお,ほかの九州地域内の空港と比べ,福岡空港は,所得水準の高い旅行者に選好されている。
以上の分析結果を踏まえて考えると,九州のインバウンド観光を推進するためには,①大都市圏を訪問するアジア客へのPR強化などを通じて地域の知名度を上げること,②中国系客の根強いお土産文化に対応し,買い物しやすい環境を整備すること,③地域特性を活かして,特色のある体験型観光を積極的に開拓すること,④より便利な交通ネットワークの整備とともに,旅行体験の交流を重視する旅行者の急増に対応し域内WiFi環境を改善すること,などの対策が重要である。