執筆者 | 今井 健一 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2015年3月 |
No. | 2014-09 |
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本研究は,平成26年度にアジア成長研究所の研究プロジェクトとして実施したものである。この報告書はその成果である。少子高齢化が進む日本においては,それが経済、あるいは社会にどのような影響を及ぼすのか,そして,それにどのように対応していくべきなのかといった議論が高まってきている。一方,少子高齢化が環境にどのような影響を及ぼすのかについての議論については,皆無ではないものの,あまり触れられることはない。その理由としては,少子高齢化と環境の接点が見えにくいことが考えられる。しかしながら,環境経済学の分野で取り上げられる重要なテーマの一つに「持続可能な発展」がある。「持続可能な発展」については,様々な解釈があるが,その意味するところは,“将来の世代のことも考えた経済面,社会面,環境面においてバランスがとれた発展”である。よって,少子高齢化が環境に及ぼす影響についての知見を蓄えていくことは「,持続可能な発展」のためのビジョンを描くためには不可欠である。
本研究では,少子高齢化が家庭用エネルギー(電力,都市ガス,プロパンガス,灯油)消費にもたらす影響について分析した。エネルギーをどのように創りだすか,そして,どのように利用していくかは,資源枯渇のみでなく,地球温暖化,あるいは安全安心な住環境などの諸問題につながる重要なテーマである。北九州市と県庁所在都市を含む九州8都市のデータに基づく分析結果は,少子高齢化の下で世帯数が増加している結果,「1世帯当たりの構成人員」が減り,家庭用エネルギー消費における規模の経済(「1世帯当たりの構成人員」が増えていくほど「世帯構成人員1人当たりの家庭用エネルギー消費量」が減っていくこと)が失われつつあるということである。この結果は,家庭用エネルギーの効率的な利用という点において好ましくない。今後,少子高齢化がさらに進んだ場合,家庭用エネルギー消費における規模の経済がさらに失われていく可能性がある。
本研究結果のまちづくりへの示唆は,家庭用エネルギーを共有して利用することのメリットである。世帯において利用する家庭用エネルギーは,世帯構成人員によって共有される部分が大きい。よって,家庭用エネルギーを共有して利用することは「世帯構成人員1人当たりの家庭用エネルギー消費量」を減らすため,効率的な家庭用エネルギーの消費につながる。北九州市が推進しているコンパクトシティは世帯の集積を促し,そしてスマートシティはエネルギーの効率的な利用を促すことから,家庭用エネルギーを共有して利用できるシステムを導入しやすいのではないだろうか。コンパクトシティ,スマートシティを推し進めるにあたっては,世帯内においてのみでなく,世帯間において,あるいはコミュニティにおいて,家庭用エネルギーをなるべく共有して利用できるような住宅構造,コミュニティ・システムを検討していくことを提言したい。本報告書が,少子高齢化におけるまちづくりのためにいささかでも参考になれば幸いである。