PUBLICATIONS & REPORTS

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台湾におけるスタートアップ支援体制の研究

Author KISHIMOTO Chikashi
Affiliation Asian Growth Research Institute
Date of Publication 2025.3
No. 2024-08
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Contents Introduction

本報告書は,公益財団法人アジア成長研究所(AGI)の研究プロジェクト「台湾におけるスタートアップ支援体制の研究(A Study of the Startup-supporting System in Taiwan)」(2024 年度実施)の成果である。

私は過去数年にわたり,台湾の事例に注目し,スタートアップ推進の政策・仕組みについて研究してきた。一連のプロジェクトは,起業家・スタートアップを生み出し成長を促す国・地域の土壌を「スタートアップ・エコシステム」として捉え,台湾の事例分析を通して,その全体像を具体的かつ体系的に把握することを最終的な目的としている。本研究の分析枠組みでは,エコシステムを「起業家/スタートアップ」と「支援アクター」という 2 つのセグメントに大別する。健全なエコシステムでは,「起業家/スタートアップ」セグメントは,「起業家/スタートアップが成長し,その起業家チームの一部がメンターやエンジェルとなり後輩起業家を支援する,もしくは連続起業家として再度事業に挑戦する」という正の循環を通して発展していく。

また「支援アクター」内の構成要素,すなわち大学・研究機関,成熟企業(特に大企業),資金提供者(ベンチャーキャピタル等),その他支援アクター(アクセラレータ等)は,各々の立場から起業家/スタートアップを支援し各種リソースの提供を行う。逆に,スタートアップが成功した際は,支援アクターに色々な形での見返りがある(投資収益,事業・技術の補完等)。この循環が回り続けることでエコシステム全体が存続・成長していくと想定する。

私の一連の研究では,「起業家/スタートアップ」セグメントよりも「支援アクター」の方にどちらかというと注目している。起業家/スタートアップは多数おり,業種や企業により技術やビジネスの内容も多種多様であり, また台湾には今のところエコシステム全体を代表するといえるような世界的に著名なスタートアップもほとんどなく,若干の事例研究をしたとしても,その全体的特徴を理解するのは困難である。むしろ「支援アクター」に注目し,そのスタートアップ支援の取り組みと戦略について分析する方が,台湾エコシステムの特徴を掌握しやすい。

2024 年度の研究プロジェクトはこのことを意識して,特に台湾におけるスタートアップ支援体制にフォーカスした。事例研究として取り上げたのは,台湾最大級の政府系研究機関である工業技術研究院(ITRI)によるスタートアップ推進の取り組み,加えて,台湾の代表的アクセラレータの 1 つである Garage+(および,その母体組織である Epoch Foundation)によるコミュニティー形成を通した起業家人材育成とスタートアップ支援の取り組みである。ただし,エコシステムの構成アクターは多種多様で,代表的なものだけでも多数に上り,今後とも不足している部分の取材・事例分析を積み重ね,台湾のスタートアップ・エコシステムの全体像を俯瞰できるように努める予定である。今回の報告書は次の 2 つの章からなる。