Author | Kazuki Tamura |
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Affiliation | Asian Growth Research Institute |
Date of Publication | 2017.3 |
No. | 2016-08 |
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人口減少社会に突入した日本において,特に地方では,いかにして人口流出を抑え,人口流入を増やすかが課題となっているようにみえる。比較的国際的な人口移動が少ない日本においては,人口という総量の決まった資源の奪い合いはゼロサムゲームであるにもかかわらず,人口の減少と高齢化という現実に直面した自治体の危機感の表れとして,この課題への政策的対応が課題となってきていると考えられる。
日本の人口移動は,若年層において,とくに高校卒業および大学進学時あるいは就職時において地方圏から都市圏への移動が顕著に見られ,その後大学卒業および就職時に都市圏から地方圏への移動が,少ないながらも見られるという特徴がある。高齢層の地域間移動も総量としては少なくないものの,学校卒業というイベントよって一斉に大勢が移動するような状況と比肩するほどではない。したがって,前述した地域の危機感への対応として,人口移動に対して何らかの働きかけをする年代を選ぶとすれば,大学進学および就職時の移動に対して働きかけるのが最も効率的,すなわち最も多くの移動者に対してアプローチできることになる。
本研究は,そのような観点から,大学進学時の都道府県間人口移動について,その特徴を分析するものである。
第2章では,都道府県別の,大学進学者に占める県外大学進学者の比率を県外大学進学率と定義し,県外大学進学率に関するパネル分析を行った結果を整理した。より具体的には,複数年次における県外大学進学率を,大学数や大学教員などを含む社会経済指標で説明する統計モデルを構築した。県外大学進学率のパネルデータに対して固定効果モデルを適用した結果,都道府県別の県外大学進学率には,潜在大学収容率や男子進学者比率,大卒者就職率や完全失業率,教員一人当たり科研費配分額,人口密度,授業料などの要因が影響しているという結果が得られた。
第3章では,大学進学にともなう都道府県間人口移動における高校所在地×大学所在地のマトリックスデータをODデータとみなして,これに修正重力モデルを適用し分析を行った結果を整理した。全体的な傾向としては,大学進学にともなう人口移動は,重力モデルの枠組みに沿った分析が可能であることを確認した。さらに修正重力モデルによる分析からは,一人あたり県民所得や大学授業料などの都道府県間格差が,大学進学にともなう人口移動に影響していることを確認した。また,性別による分析では,男子進学者に比べて女子進学者の場合には,地域の居住環境や大学の教育水準に関する格差よりも,地元からの距離を重視する傾向があることが示唆された。第4章では,大学進学にともなう移動よりも,地域人口に対して長期的な影響を与えると考えられる,大学卒業・就職にともなう人口移動の分析について,利用可能なデータの整理を行うとともに,今後の研究に向けた分析の可能性ついての予備的な検討を行い,その結果を整理した。