アジア成長研究所(AGI)は、2013年7月から新聞、テレビ、ラジオ、電子媒体など北九州で活動するメディアとの交流会「MAGI会」(メディアとAGIの会、2014年9月までの「イクメ会」を改称)を原則として月1回開いています。私どもの活動内容を地元メディアの皆さまにご認識いただき、広く地域社会にお伝えいただく一助とするとともに、メディアの皆さまとの意見交換を通じて地域社会の最新の情報ニーズを把握し、今後の活動に役立てるためです。
第15回「MAGI会」(メディアとAGIの会=「イクシアードとメディアの会<イクメ会>を改称)
2014.11.25(火)19:00~21:00@AGI会議室(北九州市・大手町のムーブ6階)
話題提供者:坂本 博 主任研究員
テーマ:「中国を理解するいくつかのポイント」
出席メディア:NHK、時事通信社、ヤフーニュース、読売新聞社(=五十音順)
中国を研究対象としてから20年くらいになります。この間、留学、毎年の出張など様々な機会で観察してきた中で、この国を理解するうえで重要なポイントをいくつかお話ししたいと思います。
第1のポイントは多様性だと思います。これは人口が多いことがすべてではないでしょうか。日本の約10倍の13億人以上の人が住んでいます。「北京=愛国、上海=出国、広東=売国」という言葉があるほどで、言葉の違い、食事の違い(甘い、辛い)など地域によって状況は実に多様です。これが私の研究テーマでもある「中国の地域間格差」の原因にもなっています。
第2は機敏性でしょう。「上に政策、下に対策」という言葉があります。長い中国の歴史の中で為政者がたびたび変わる中で、中国の人々は自分たちの生活を守るため、「タダでは転ばない」したたかさを身につけていると思います。時の政府の決めた政策の抜け道を探し、それを実行するのです。これが「下に対策」です。
第3は階級性でしょうか。「民主」というと、日本などでは国民主権を意味しますが、中国では「民」はあなた、私は「主(あるじ)」と解釈されるそうです。中国は指導者層に明確な序列があるようです。一般人である「民」も「都市戸籍」と「農民戸籍」の2つに分かれます。この2つはかつて完全に分断されていました(最近は少し変わりつつありますが)。
第4は「法治」ではないしょうか。これは日本語の「法治」とは違い、中国では「法の上に人が存在する」という意味のようです。「友好」も日本では「お互い対等」の立場ですが、中国では「上下関係がある」のです。例えば、「日中友好」といっても、日本は「小日本(シャオリーベン)=取るに足らない日本」という蔑称もあるように、本音では中国が上、日本が下ということになります。
これらの4つを踏まえて、中国はすぐれて「政治の国」(政治主義)ではないかと思います。ひたすら権力闘争を繰り広げており、誰が上に立つか、支配するかがポイントになるのではないでしょうか。中国政府が1979年から進めている市場経済も、政治の道具として機能している面がありますし、海外企業の誘致活動も「利用外資」という言い方で、外国資本を利用して自分たちの国、地域を成長させようという意味が込められているように思います。
また、中国では各地、各階層でその人が獲得した政治的なポイントによって地位、身分が向上する面が強いように思います。仮に法に触れることをしたとしても「主(あるじ)」になれば免罪されるようです。これが腐敗の温床になっているのではないでしょうか。指導者は政敵の汚職を徹底的に摘発しますが、自らの周辺の問題には目をつぶるようです。ただし、トップが代わるとまた立場が変わるわけで、これが延々と権力闘争が続く所以でしょう。
さらに重要なのは、誰でも「主」になれることではないでしょうか。外国人であっても中国の「主」になれるのです。現に中国史上、モンゴル族、満州民族など漢民族以外の異民族が国を支配した時代がかなりあります。
一方で、中国経済の現状を説明する言葉としては、「抜苗助長」というのがあります。「苗を引っ張って、成長を促進する」という意味で、これまでの成長にやや無理があるように思います。下手をすれば枯れてしまう恐れがあります。投資がGDP(国内総生産)の50%超と多すぎるのではないでしょうか。その副作用として環境破壊が進んでおり、バブル経済も崩壊する可能性が指摘されています。中国はこれをどう切り抜けるのでしょうか?綱渡りの経済運営が続いていると思います。
(協力研究員・江本伸哉)
更新日:2014年12月16日
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