アジア成長研究所(AGI)は、2013年7月から新聞、テレビ、ラジオ、電子媒体など北九州で活動するメディアとの交流会「MAGI会」(メディアとAGIの会、2014年9月までの「イクメ会」を改称)を原則として月1回開いています。私どもの活動内容を地元メディアの皆さまにご認識いただき、広く地域社会にお伝えいただく一助とするとともに、メディアの皆さまとの意見交換を通じて地域社会の最新の情報ニーズを把握し、今後の活動に役立てるためです。
第14回「MAGI会」(メディアとAGIの会=「イクシアードとメディアの会<イクメ会>を改称)
2014.10.29(水)18:00~20:00@AGI会議室(北九州市・大手町のムーブ6階)
話題提供者:チャールズ・ユウジ・ホリオカ(Charles Yuji Horioka)主席研究員
テーマ:「高齢化率と貯蓄率」
出席メディア:RKB毎日放送、時事通信社、TVQ九州放送、西日本新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社、ヤフーニュース(=五十音順)
貯蓄は可処分所得のうち、消費せずに貯めておく分であり、貯蓄率は可処分所得に占める貯蓄の割合を示します。内閣府が発表する「国民経済計算」によると、日本の家計貯蓄率は1970年代半ばに23%を超え、日本の家計は可処分所得の4分の1近くを貯蓄に回していましたが、これをピークにその後は下落を続け、2010年代は2~3%で推移しています。
ライフ・サイクル・モデルによると、人々は一般に若い間は所得を稼ぎ、老後に備えて所得の一部を貯蓄し、歳を取ったら退職し、現役時代に蓄えた貯蓄を取り崩すことによって生活費を賄います。したがって、生産年齢人口に占める老年人口や年少人口の割合が高ければ高いほど、貯蓄率が低くなるはずです。
日本は出生率の低下に起因して1955年から年少人口がほぼ一貫して減少する一方、老齢人口は寿命が延びたことから増え続けており、世界で最も高齢化した社会になっています。1970年半ばまでは年少人口比率の減少の効果の方が大きく、家計貯蓄率が上昇傾向を示しましたが、1970年半ば以降は老年人口比率の上昇の効果の方が大きく、家計貯蓄率は減少傾向を示しています。
日本の人口高齢化は今後も急速に進むと予測されており、家計貯蓄率はさらに低下し、マイナスになる可能性すらあります。これは、所得以上に消費すること、つまり、貯蓄のストックがマイナスになる訳ではなく、毎年の貯蓄のフローがマイナスになり、貯蓄を取り崩して消費している事態を意味します。
2013年の総務省の「家計調査」によると、政令指定都市の家計貯蓄率(「家計調査」における家計貯蓄率(黒字率)は、上述の「国民経済計算」における家計貯蓄率とのかい離が大きく、両者の単純な比較は困難です)は、さいたま市が35.8%、岡山市が35.7%と、所得の3分の1以上を貯蓄している政令市がある中で、北九州市は22.3%と低く、神戸市(14.8%)、東京23区(20.5%)、横浜市(22.0%)に次ぐワースト4位です。北九州市は老年人口比率が27.2%で、全国政令市ではダントツの1位であり、2030年には30%に達するとの予測もあります。「高齢化が進むと貯蓄率が低下する」という私の考えと整合的な結果が出ています。
アジア諸国の貯蓄率は総じて高いですが、ばらつきが大きく、インドやパキスタン、ベトナム、フィリピンといった例外もあります。貯蓄率は総じて上昇傾向にありますが、インドネシア、フィリピン、台湾などでは低下しています。今後は高齢化が進む国では貯蓄率が低下し始め、高齢化がしばらく進まない国(インド、パキスタン、ベトナムなど)では貯蓄率がさらに上昇するか、高水準を維持するとみられます。
現実には、高齢化が進むと①家計貯蓄率が低下する②働かない人が増えて、労働力不足が生じる③社会保障費が増大し、財政赤字をもたらす④消費構造が変化する――という4つの問題が生じます。しかし、④は高齢化に伴い、高齢者が好む消費が増えることを意味します。つまり、医療・介護関係やレジャー・旅行関係の消費が伸びるわけです。
説明するホリオカ主席研究員
では、自治体として何ができるかですが、例えば、米国フロリダ州、アリゾナ州では税制面の優遇措置などによって、老人ホームを誘致しています。多くの老人ホームができ、多くの老人が両州に移住しています。フロリダ州は一年中暖かく、海に面しており、自然が豊かです。州の所得税、相続税がゼロで、固定資産税が最高で3%と低いことから、世界で最も老人ホームが集中している場所です。アリゾナ州も一年中暖かく、乾燥しているため花粉症に悩む人にとってはいい場所です。こちらも自然に恵まれ、多くの州立公園、国立公園があります。州の所得税は2.59~4.54%と低く、相続税はゼロ、固定資産税もゼロです。
北九州市も物価が安く、自然も豊かです。医療・介護、レジャー・旅行をはじめ、高齢者向けの消費・サービスに力を入れれば、高齢化は恐れるものではなく、チャンスとさえとらえることができます。
【主な質疑応答】
Q「横浜市の貯蓄率が低いのは年少者が多いせいか?」
A「理由は分からない。そうかもしれない」
Q「神戸市の貯蓄率が14.8%と極端に低い理由は?」
A「よく分からない。ファッションなど消費性向が高いためだろうか」
Q「北九州市の人口はずっと減り続けるか」
A「政府の政策にもよる」
(協力研究員・江本伸哉)
更新日:2014年11月20日
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