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第23回「MAGI会(メディアとAGIの会)」を開催いたしました

アジア成長研究所(AGI)は、2013年7月から新聞、テレビ、ラジオ、電子媒体など北九州で活動するメディアとの交流会「MAGI会」(メディアとAGIの会、2014年9月までの「イクメ会」を改称)を原則として月1回開いています。私どもの活動内容を地元メディアの皆さまにご認識いただき、広く地域社会にお伝えいただく一助とするとともに、メディアの皆さまとの意見交換を通じて地域社会の最新の情報ニーズを把握し、今後の活動に役立てるためです。

第23回「MAGI会」(メディアとAGIの会)

2015年12月14日(月)18時~19時20分@AGI会議室(北九州市・大手町のムーブ6階)

話題提供者:江本 伸哉・AGI協力研究員(九州国際大学経済学部特任教授)

テーマ:「ダイハツの九州→インドネシア工場戦略」

出席メディア:朝日新聞社、RKB毎日放送、西日本新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社(50音順)

<話題>
ダイハツは1907年に大阪府池田市で「発動機(エンジン)の国産化」を目指して、大阪高等工業(現大阪大学工学部)と大阪実業人が創業した我が国の産学共同事業の先駆け。スズキと世界の軽自動車首位を争う名門メーカーである。大阪・池田の本社工場に続いて、群馬・前橋(稼働1960年)、京都(同73年)、滋賀(同74年)と工場を展開し、九州には21世紀に入って大分・中津(同2004年)に車両工場、福岡・久留米にエンジン工場(同08年)を稼働させた。資本面では、実は早くも1967年にトヨタ自動車工業・自動車販売(現トヨタ自動車)と業務提携し、1998年にはトヨタの子会社になり、トヨタグループの重要な一員となった。
①ダイハツが国内最大の量産工場を前橋(ダイハツ車体)から中津(ダイハツ九州)に移した理由は、(1)前橋工場が老朽化したうえ、敷地が10万平方メートルと狭く拡張余地がなく、周辺が市街地化し住工混在問題を抱えていたこと(2)本社、滋賀、京都の3工場から遠く、部品供給が不便であったこと(3)内陸にあり、輸出に不便であったこと――である。一方、中津工場は(1)中津市郊外の臨海工業地域にあり(2)敷地は130万平方メートルと広く(3)同市が455億円の公費を投じて隣接地に中津港を「重要港湾」として整備したため、輸出環境も良好である。バブル経済崩壊後、「軽」人気が高まる中で、最新鋭の大型工場新設で低コスト化・増産を狙ったものである。
②ダイハツ九州の第2工場(稼働2007年)のコンセプトである「シンプル(S)、スリム(S)、コンパクト(C)」とは、建屋面積を5万平方メートルと第1工場(同2004年)の11万平方メートルの半分以下のコンパクトに抑え、製造ラインの工数を削減しシンプルにすることで設備投資額も235億円と第1工場(約400億円)の半分強にスリム化したが、生産能力は第1工場と同じ年産23万台を確保した。人員も第1工場の1300人に対し、第2工場は1000人とよりスリムである。
③ダイハツが九州工場からインドネシア新工場(カラワン工場)に「移植」したものは、九州工場の「SSC」。建屋面積は8万2000平方メートルと九州第1工場と第2工場の中間で比較的コンパクトで、設備投資額は210億円と九州第2工場並みのスリムな水準に抑えた。ただ、従業員は約2500人と多く、生産能力は年産10万台と九州よりかなり劣る。これは自動化よりも人海戦術を重視した結果とみられる。
④ダイハツがインドネシアで現地の実情に合わせて「進化」させたものは、日本では組み立て従業員の人件費が高いため、自動化を徹底したが、インドネシアでは人手が比較的豊富で安価なため、トラブル時もラインを止めるとか、メンテナンスしやすいような設計にするとか、工場の明るさ、静かさ、暑さ対策に力を入れた。また、内装材などを中心に現地サプライヤー(部品メーカー)を20社以上開拓し、現地調達率を従来の80%から85%に高めた。サプライヤーの品質改善を支援し、毎週合同でスポーツ大会を開くなどして仲間づくりにも努めた。2012年にはR&Dセンターを開設し、現地ニーズを織り込んだ商品設計に切り替えた。
⑤九州工場がインドネシア新工場に対して果たす役割は、製造技術・ノウハウを伝えるマザー工場(中津工場)として機能している。インドネシアのサプライヤー(部品メーカー)幹部を毎年10日間、九州工場に招き、技術研修とモチベーション維持、他社からの引き抜き防止に役立てている。また、久留米工場はASEAN(東南アジア諸国連合)向けエンジン、トランスミッションやその関連部品を開発するR&D拠点として機能している。
⑥トヨタはダイハツの九州、インドネシア工場に対して、トヨタが開発した車の生産を委託したり、ダイハツが開発した車をトヨタブランドで生産させるOEM(相手先ブランドによる生産)供給依頼が増えている。特にインドネシア工場での委託・OEM比率が高まっており、トヨタとしては経済成長が続くASEANで需要が盛り上がっている小型車市場で、今後ともダイハツ・インドネシア工場を自社のASEAN工場の生産能力を補完する「別動隊」として活用すると思われる。ダイハツ側にも工場の稼働率を維持できるメリットがある。ただ、将来、ASEANでの小型車需要が減速・低迷した場合にはトヨタとダイハツの工場間の生産調整の問題が生じるかもしれない。

<主な質疑応答>
Q「ダイハツは現地ニーズに合ったクルマを作るのがうまいと聞く。どんな努力をしているのか?」
A「インドネシアでは新工場の隣接地に新型車の開発・評価機能をもったテストコースを設置し、車体のデザインはすべて現地で行っている。同国では大雨が多いため車高を上げて冠水を防ぐとか、同国特有の暑さ、埃、悪路、急坂に対応するといった工夫をしている」
Q「ダイハツからすれば、トヨタ車よりも自社ブランド車を作りたいのが本音だと思うが、資本関係からすれば、それは難しいのか?」
A「トヨタが1998年にダイハツの過半数の株式を取得した後は、ダイハツのトップにはトヨタの副社長経験者ら役員OBが就任している。資本主義経済の常としてダイハツが親会社のトヨタの意に反した行動を取ることは、通常あり得ないと思う。しかし、トヨタも賢明な会社で、関連会社に無理難題を押し付けることは滅多にない。ダイハツ(九州・インドネシア)に対しても稼働率維持という経済的な見返りを与えている」
Q「ダイハツは報道機関に対してなかなか工場を見せないなど閉鎖的な体質があるが、調査ではその辺りをどう工夫しているのか?」
A「確かに開放的な社風とは言い難いが、やはり親会社のトヨタへの気兼ねはあると思う。また、ライバルのスズキとの間で熾烈な軽自動車市場シェア争いを展開しており、競争力維持のため、特に戦略拠点である九州第2工場については機密保持に神経質になっている面は否定できない」
Q「⑥の仮説は今後どのように検証していくのか?」
A「九州の工場がアジア工場のマザー工場として機能するという動きは、九州経済界にとっても、日本全体にとっても、普遍的かつ戦略的な命題だ。トヨタ関係者の協力、助力を得るなどして、慎重かつ粘り強く解明していきたい」

20151214 MAGI会①
ムーブ6階のAGI会議室で開かれた第23回MAGI会(2015/12/14)

20151214 MAGI会②
「ダイハツは九州第2工場をマザー工場にして、その建設・運営ノウハウをインドネシア新工場に可能な限り移植、応用している。九州はダイハツのアジア戦略の中核拠点になっている」と説明する江本伸哉AGI協力研究員。

 

更新日:2015年12月25日
カテゴリ:研究交流  AGIニュース